【脚本冒頭公開】葬想曲

 目の前に、ひとつの影が待っています。 

 目の前に、幾つもの光が舞っています。


 わたしは、本当はこんなことしたくなかった。

 そして、こんなに早くこんな時間が来るなんて思っていなかった。 

 けれど、それが君との約束だから。

 それがあなたとの契りだから。

 光がゆっくりと、導くように、海を照らしています。

 小さな波が幾度も寄せる浜辺で、わたしは、最愛のあなたの。 

 ずっと、永遠に最愛の、あなたの、棺に横たわっています。

 目を開けないあなた。

 言葉を伝えてくれないあなた。 

 息をしないあなた。 

 夢は幻に消えて、現実に嬲られているけれど、それでもあなたは 逝ってしまったのだと。 

 涙が、わたしの頬に教えてくれます。 

 いつかきっとこんな時が来ることは知っていました。 

 それでも、わたしは、あなたに生きていて欲しかった。 

 生き続けて欲しかった。 

 病床に倒れて、日々辛そうにしているあなたにそう願うことは、 残酷だったのかもしれないけれど、それでもいて欲しかった。

 わたしの全てがあなただったから。 

 あなたのいない世界なんて、そんな紙屑みたいなもの、 どうでもいい。

 生き返ってくれるなら、世界と引き換えにでも。

 わたしの命と引き換えにでも。

 そんなことを、浜辺で見送る前にずっと考えていた。 

 棺を取り囲む13のともしびが揺らいでいる。 

 そんなともしびを、揺れる視界で見つめていると、光を纏ったように見える蝶が棺の周りを舞って。

 その角に留まる。

 そこに。 


 (セリフ) 「…手紙?」


 震える声で言う私は、あたしの揺らぎを見逃さない。 

 これは、私が受け取っていいものなのだろうか。 

 とは言っても、家族もいない彼のこと。

 友達にあてたものなのかもしれない。 

 そう思ったら、少しだけでも内容を確認して届けるべき相手に 届けなければいけないと思った。  そんな逡巡をしていたら、蝶はどこかに去ってしまっていた。

 ゆっくりと。 

 重くしまっている棺の扉の隙間から、その手紙を、丁寧に、 壊れないように抜き出して。 

 とても丁寧に織られた紙の封筒でできていることが、肌触りで わかる。

 大切なものなのだろう。

 封筒は、閉じられていない。

 宛名も書かれていない。

 震える手で、私はそれを開き。

 閉じられた便箋を手に取る。

 中には、3枚ほど綴られていた。

 そして私は。

 先ほどよりもゆっくりと、ゆっくりと。

 

 その便箋を開いた。   

T.E.A.-R

2017年11月上演予定のイベント「Time Erase Anything」の情報サイトです。

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