【脚本冒頭公開】Dystopia Lovers
彼が気づいた時にはすでに目の前が真っ赤なエラー表示でどんどん埋め尽くされ、その向こうにある現実が遠のいていく感覚に襲われている。
意識に直接警告音が鳴り響いていることだろう。
それは本来一つであるはずなのに、エラー警告表示が増えると重そうなオーケストラのように幾重にも重なって響いているはずだ。
まだ増える。まだ増やす。
もはや、自分の体にはエラーしかないような感覚に陥ってしまっているのだろう。
当然把握していたが、演算していたがため、エラーの数は把握できていたはずなのに、とうとういくつ警告が重なったのかわからなくなるほどまでに情報量を増やす。
そして、その向こうにかろうじて見えていた砂漠を遠く遠くに引き剥がす。
俺の体は、膝から崩折れた。
砂漠は好きだ。
奮い立たせてくれる。
ってことは今の世界じゃ、
俺はどこにいても興奮しっぱなしってことだ。
あの荒野を。
砂と銃弾と人工脳漿やら人工臓器やらの飛び交う荒野を、俺は住処にして食い物にして生きている。
西暦12018年。
なんとかって災害が起きて人類の大半が骨になって消し飛んだり半分になったり。
んでそのタイミングで、
見張ってたのかなんか知んねーが外宇宙から侵略者が来た。
そいつらとの戦争はかろうじて和解で終わったものの、災害の方の後始末が後手後手になっちまって、結局半分は放置した状態になり、助かったはずのやつも死んじまったって記録だ。
俺が文字どおり作られる前の話だから、俺自身が経験したわけじゃなく、最低限の社会生活を送るために必要な知識を埋め込む
学習プログラムでしかしらねぇ。
なんせ、八千年以上前の話だ。
さてそこで!
残った人類は俺らを作ってさっさとと月と火星に逃亡。
地球は留守にして外から管理してるだけ。
実際に残って働くのは、無理やり地球環境適応能力を植え付けられた俺らバイオロイドだけだ。
まあ、その辺は?俺も文句がねぇわけじゃねぇ。
全部俺らに押し付けて、いつか帰ってくるために掃除しとけってことだ。
自分らが引き起こしたアホな人災のせいで、地球を追われることになった人類に同情も何もねーし。
情状酌量の余地なし!
とか言ってっけど、これもやっぱ学習プログラムの知識でしかねーんだよな。生の人類なんて見たことねぇし。
ともあれ、そんな世界。
全地球がほぼ灼熱と砂埃の砂漠と化してるっつのになんでも北極の方じゃ氷河が動いてるらしい。
いつの間にこの星は調整を忘れたんだろうな。
さて、そんな世界で、
俺が何をやってるのかっつーと。
新たにちびちび生まれ始めた異様な生きモンの退治と、犯罪者バイオロイドの義体壊しだ。
正直、俺はこのために砂漠にいる。
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